「はぁ……そんなどうでもいいことでわざわざ相談に来たんですか」
 イルファお姉ちゃんは、私の切実な悩みを聞くと、さも面倒くさそうに息を吐いてくる。
 あたしはこんなにも悩んでるっていうのに、やる気の無い反応を見せて……姉妹愛って
いうのはないのかな。
 あたし自身、あるかと言われると……悩んじゃうけど。
「だってぇ、最近マンネリ気味っていうか、求めてくれないっていうか……」
「単純にあなた達はヤり過ぎなだけです!」
「もっと愛して貰いたいの!!」

 あたしが説明したのはこうだ。
 最初の頃は貴明もいっぱい求めてくれたし、あたしも勿論喜んで受け入れた。
 貴明が求めてくれることがあたしの至上の喜び。それはもう毎日が至福の日々だった。

 でも、それも数ヶ月経つと、頻度は明らかに減っていった。
 だからといって、あたしから求めても、それはただの色情狂になっちゃう。
 ……素からそうだとか思わないでよね。
 それでもほぼ毎日はしているんだけど……物足りなくなっちゃうのは我侭なのかな。
 も、もしかして、浮気とか……!
 とも思ったんだけど、朝起きてから学校、一緒に帰宅して、寝るまで一緒。
 場合によっては一緒に寝ることも……えへへ……。
 じゃなくて! ほぼ一日中一緒にいるんだから、浮気はさすがにないと思う。
 だからこそ、不安にもなるのだ。
 やっぱり、一緒に居続けるとマンネリとかになっちゃうのかな?
 熟年離婚が最近は多いってテレビでも言ってたし……。

 だから、こうやってわざわざイルファおねえちゃんに相談しにきたのだ。
 なのにこのやる気のなさ……自慢のキックでおかしくしてやろうかと思ってしまう。
「シルファからご主人様を奪っておいて我侭いうなんて、ふてぇやろうれすね」
「なによ、捨てメイドは夕飯作ってなさいよ」
「ぴぃ!? シ、シルファはご主人様のために身を引いたらけなんらもん!」
「素直に負けを認めたらどうなの? 土下座すれば許してあげないこともないけどぉ?」

 ピコッ

「こらっ。調子に乗るんじゃありません。シルファちゃんはあなたの為にこっちに
 戻ってきただけなんですから」
「う……」
「へへーんら。うっかりものはいまに成敗されるんれすから」
「シルファちゃんも変なしゃべり方はやめなさい。もぅ、時代劇なんてみるから……」
「水戸黄門は名作れす」
 変なものに嵌ってるんだ……メイドロボも暇だと主婦みたいになっちゃうのね。
 気をつけないと。
 あたしの場合は、貴明のお世話でいっぱいだからそんなことにはならないけどねー。

「でね、どうしようかと思って」
「そうですね……浮気が気になるんだったら調査してみたらどうですか?」
「調査っていっても……そんな機能無いよ? おねえちゃんみたいにスパイ衛星を
 ハッキングして調査なんて変態チックなことできないし」
「人を変態扱いしないでください……あれは心配だったからしただけです!」
「イルイルはいつも変態れす。たまにご主人様の家覗き見してるれすよ」
「……おねえちゃん」
「あ、あれは! ミルファちゃんがしっかり出来てるか気になったので……」
「らからって、ミルミルがエッチしてるのを覗いてオナニーしてるなんて、
 立派な変態れすよ」
「シ、シルファちゃん!!」
「……なんでシルファがそんなことを知ってるの?」
「……き、企業秘密れす」
 やっぱり、あたしは姉妹愛なんていらない……。
 貴明にはいくら見られてもいいけれど、他人に見られるのは恥ずかしい。
 それも、姉と妹に覗き見されてたなんて……あんな行為や、こんな行為を見られて
ないといいんだけど……。
「ミルファちゃん」
「な、なによ」
 何を見られてたのか色々と思慮をめぐらせていると、イルファおねえちゃんが
いきなり真剣な面持ちでこちらを見てくる。
 怒られるようなことはしてないと思うけど……。
「女性の方からアナルを要求するのはどうかと思いますよ? 後、貴明さんのアナルを
 いじめるなら、あくまでソフトにね?」
「おねえちゃんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「えぇ!? 今日から明日まで緊急のメンテナンス?」
 朝、いつものように食事をしている時に、あたしは貴明へ嘘をついた。
 貴明に嘘をつくなんて、久しぶりかもしれない。
 さすがに悪い気もするんだけど、これは二人の愛の為……許してね、ダーリン。
「うん。そんなに大事じゃないらしいんだけど、念のためにだって」
「そっか……大事じゃないなら良かったよ。心配しちゃった」
 あたしの嘘を疑うことも無く素直に受け入れ、ホッとしたような表情を見せる貴明。
 あぁ……もう可愛いなぁ。
 今すぐにでも抱きしめたいくらい。
「だから、今日は夕飯作れないから……ごめんね? 煮物くらいなら冷蔵庫に作り置きが
 あるんだけど……」
「いやいや、気にしなくていいよ。俺は一日くらいなんとでもするからさ」
「だからって、コンビニ弁当とかカップラーメンはダメだよ?」
「……一日くらいはさ。ほら、脂っこいものを食べたくなる年頃だし」
「もう、ジャンクフードはほどほどにだからね」
 やっぱり、浮気なんてしてないと思うんだけどなぁ……。


『スパイ衛星を使う気が無いなら、やはり基本は尾行調査です』
『それってあたしの日常と変わらない気がするんだけど』
『ほぼストーカー状態れすからね』
『そうですね』
『むむむ……で、何が違うのよ!』
『大事なのは、当人が居ない状態で、どういう行動を取るかってことです』
『ご主人様も裏れろんなことをしてるかわかったもんじゃないれすから』
『そ、そっか……。あたしが居ないところでどうしてるか……うん、わかった』
『では、あたしの卓越した尾行術を教え込みますから』
『えぇ〜? そんな面倒なことしなくてもさんちゃんに頼んで現行シリーズのデータから
尾行に関するものをインストールすれば……』
『道具に頼っちゃいけません!』
『ママを道具扱いしないれくらさい……』


「それじゃあ行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい。それじゃあ久々に……」
 そう言って、あたしは貴明にいつもの出かける前のおねだりをする。
 こういうことをするのは、いつもメンテで一緒に行けない時くらいだからちょっと新鮮。
「……仕方ないな。気をつけてね」
「んっ♪」
 あたしのおねだりに、いつも貴明は応えてくれる。
 本当、優しいんだから、もっと好きになっちゃう。
 こうして、たっぷり貴明の寵愛を貰い、彼は学校へと出発していった。

「よし、じゃあ出発!」
 貴明の出発から遅れること数分。あたしは出発した。


「あら、貴明。今日はミルファちゃんは?」
「うん。急にメンテが入ったから今日明日は研究所に行くってさ」
「そうなの。彼女も色々大変ね」
「それじゃあ、タカくん久しぶりにうちにきなよ! タカくん来るって言ったらお母さん
 喜ぶよ!」
「で、このみは何を食べたいんだ?」
「うーん。すき焼きかなー」
「……正直なやつだなぁ」

 貴明たちから離れること数メートル、見られないように障害物に身を隠しながら、
少しずつ追いかけていく。
 話している内容も、来栖川特製の超高性能指向性集音マイクでバッチリ!
 なんでこれをおねえちゃんがもってたのか、聞かないでおいたけど、
きっとよからぬ事に使ってたんだろうな。
 本当、なんでこんな技術の無駄遣いを……まぁいいか。
 改めて、貴明たちの会話を盗み聞く。

「でもよぉ、可愛いし、家事も出来て、あれだけ愛されてよぉ……羨ましいとは思うけど
 姉貴みたいに、毎日毎日色々言われて、貴明も大変じゃねぇのか?」
 ……雄二くん、減点。
「そんなことないよ。ミルファにはいつも世話になっちゃってるし。
 メンテの時くらいはゆっくり出来てるといいんだけどな」
「あの子の場合、貴明が言っても家事を休むなんて事はしなさそうだしね。
 いいんじゃない? それがあの子の幸せなんだし」
「うーん……このみはお掃除とかあんまり好きじゃないであります……」
「このみはもう少しお嫁さんの練習しないとね」

 うぅ……楽しそうでいいなぁ。
 じゃなくって! あたしは尾行してるんだから、しっかり調査しないと!

 結局、それらしい素振りを見せることもなく、いつもの何気ない会話をしたまま、
学校へと入っていってしまった。
 校門近くの電柱の影で一人ぽつんと佇むあたし。
 なんだか、一人取り残された気分で、凄くむなしいんだけど……。
「なんだ? 河野じゃないか。もう予鈴鳴ったぞ?」
 もう周りには生徒が見られない中、校門を閉じようと知っている先生がやってきて、
あたしに気付いてきた。
 あ、まずい……。
「あ、あの! 今からメンテナンスなんで!」
「そ、そうなのか……」
 一時撤退!


 先生が理解をする前に、急いでその場から走り去り、改めて状況を確認する。
 今は授業中だから浮気のしようが無いと思うけど……ここまで来たら調査はしたいよね。
でも、声はともかくとして見つけるのがなぁ……。
 流石に隣の校舎の屋上から見るような望遠機能は持ってないし……。
「そんな時にこの私の出番ですね!?」
「うわっ!? お、お姉ちゃん!?」
 調査方法について悩んでいると、後ろから唐突に声がかけられた。
 慌てて振り向くと、そこにはなぜか眼鏡をかけたお姉ちゃんが……。
 しかも……
「なにその格好……」
 あたしと同じ学校の制服を着てるし。いつ手に入れたんだろう……。
「忍び込むなら、それにあった服装でいるのは当然です」
「で、なんで制服なんか持ってるのよ。しかもピッタリみたいだし」
「もちろん注文しました」
「そんなアッサリと……」
「それはどうでもいいんです! さ、行きますよ」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ……」
 何故かあたし以上にハリキるお姉ちゃんに引っ張られるまま、校門を乗り越え、
学校へと侵入することになってしまった。
 これって、不法侵入なんだけど……いいのかなぁ。

「ここからなら貴明さんのクラスも見れますよ」
 授業が始まった時間にもなると、廊下は誰もおらず、人が少ない経路を進めば
さほど苦労することもなく屋上へと侵入することが出来た。
 なんでこの人はこんなに手慣れてるんだろうか……。
「お姉ちゃんはなんでこのスポットを知ってるのよ」
「それは見張りの為です」
「人を見張らないでよ!?」
 メイドロボの本分を忘れて何してるのよこのバカ姉は!?
「だったら心配させないでください! いつも寝てるか何か別のことをしている
 ばかりで……そんなんだから赤点取ったりするんです!」
「う……じ、自分の仕事もしなさいよね!」
「それは既に終わってます。メイドロボをなめないでください」
 いや、あたしも同じだし。
「はい、ミルファちゃんこれをどうぞ。倍率は合わせてありますから」
 そう言って手渡してきた双眼鏡は明らかにメカメカしく、いろんな機能がついてそうだ。
 普通は売ってなさそうだけど、本当……どこでこんなのを手に入れてくるんだろう。
 貴明のいる教室を見るべく覗いてみると、確かにしっかりと見える。
「もともと別部門での試作品だったみたいなんですけど、面白そうなんでパクっ……
 こほん。手に入れてみました」
「今絶対パクったって言ったよね! いくら三原則に載ってないからといっても、
 これって窃盗じゃないの!?」
「気にしたら負けです。目的のためになら手段は選んでられません!」
 気にした方がいいと思うよ? 一応ここって法治国家だしさ……。
 でも、おかげで貴明の事を見てられるし、まぁいいかぁ。

「うーん……やっぱりいつもどおりだよねぇ」
 見ていても、そんなに変わったところは見られない。
 貴明ってばそれなりに授業は聞いてるもんね……偉いなぁ。
 私には真似できないわ。
「あ……もう、優しいのは嬉しいんだけどなぁ……」
 また困ってる愛佳ちゃんのこと助けてる……。
 雄二くんみたいに下心があるわけじゃないし、貴明の性格からすればいつものこと
なんだけど……それでもちょっと嫉妬。

 あーもう!
 なんであたしこんなことしてるんだろう……!

「ちょっと、お姉ちゃ……」
「あぁ……必死に頑張る瑠璃様……素敵ですぅ」
「不健全な理由でこんな技術使うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「ぎゃふぅっ!!」

 

 結局、それからお昼休みを挟んでずっと監視をし続けたけれど、特にいつもと変わる
ことはなにもなかった。
 当然といえば当然なんだけど、貴明ってば女の子に人気あるから、あたしが居ないのを
いいことに、色々と群がってるのがちょっと嫌だったけど……。
 その人気のある貴明があたしを選んでくれたと思えば、ちょっと優越感だよね。
「気が済みましたか?」
「……後は帰るまでだもん。まだまだ」
 お姉ちゃんの帰るかというニュアンスの言葉に、あたしは半分意固地になりながらも
断った。
 ここまできたらとことんやらないとね!
 このままさんちゃんの家におめおめと帰るのもなんだか嫌だし。
「ミルファちゃんの場合、本当にメンテナンスしてもいいんですけど……」
「それよりも、お姉ちゃんがメンテナンスしてもらえば?」
「えぇ……さっきの鳳凰脚ばりのコンボは効きましたからね……」
 そんなの食らって当然ですから。

 

「ここまでは問題なし……ん?」
 放課後、雄二くんとゲームセンターに行って遊んだりした後別れ、一人で家に帰ると
思ったところで、環先輩が貴明にひっついてきた。
 な、な、何ぃ!?
 こんなところでまさかのイベント発生なんて……つけておいてよかった。
 き、聞かないと!

「タカ坊、今日のお夕飯どうするか決めてないんでしょ?」
「う、うん……冷蔵庫の中におかずとかあるみたいだし、ご飯でも炊いて
 食べようかなって」
「それじゃあダメでしょ? 副菜はいいとして、メインディッシュは私が作ってあげるわ」
「そんな、悪いよ」
「そんなことないわよ。むしろ嬉しいくらいよ。最近、タカ坊にご飯食べさせられて
 なかったし」
「そうだけど……うん。じゃあお願いするよ」

 そっか……あたしがいつもご飯作ってるから、春夏さんの料理も食べてないって言ってた
し、環先輩の料理も食べてないよね。
 たまには外食もしたくなるもんだって言うし……そういうもんなのかな。
 ちょっと残念だけど、食べ飽きてもらっても困るし……うん。
 そのまま、環先輩と貴明は家へと入っていった。

「これじゃあ……本当にストーカーか何かだよね」
 庭の草むらに隠れて、コソコソと家の中を覗き込む。
 ダンボールでも被ってたら本当にヒッキー……

 ガサガサ

「何やってんの、あんた」
「……ふ、見破るとはミルミルも中々やるみたいれすね」
 そりゃ、玄関付近で徳用みかんの箱が動いてたら誰でも気付くわよ。
「何しに来たのよ、一体」
「本当なら、シルファがご主人様の夕飯を作って見直させてやろうと思ったんれすけろ、
 ……必要なさそうれすね」
「……そうね」
 家の中では環先輩が嬉しそうに料理をしているのが見える。
 自業自得ではあるんだけど……なんだか悔しい。
「れ、ご主人様は浮気してたんれすか」
「今のところはさっぱり。多分、あたしが知る前の生活と変わらない感じ」
 変わらない生活かぁ……。
 そうなんだよね。あたしと貴明が一緒に居る生活なんて、ほんの数ヶ月。
 幼馴染であるこのみちゃんや、環先輩の方が一緒にいる時間は圧倒的に多い。
 それこそ、少しだけであたしとの思い出が消えてしまうほどに……。
「なにシケた面してるんれすか」
「な、なによ」
「ご主人様に選ばれたくせに、そんな顔するなれす」
「選ばれた……」
「ご主人様はシルファれも、このこのれも、タマタマれもなくて、ミルミルを
 選んらのれすよ。らから選ばれたくせにそんな顔するなれす」
「シルファ……」
 いつもぶっきらぼうな言い方しか出来ないくせに、ちゃっかりフォローするように
なっちゃって……こいつも成長してんのね。
 ちょっとぐっと来ちゃったじゃないの。
「い、一応感謝しておくわ。ありがと……」
「ご主人様が嫌になったらいつれも言ってくれればシルファが変わるれすよ」
「それはないもん!」
「それは残念れす。それじゃあ、シルファは用事も無いから帰るれすよ。
 後れこっちに来るんれすよね?」
「うん。行くときになったら連絡する」
「わかりましたれす。それじゃあ……よいしょっと」

 ズルズル

 いや、ダンボールに入って帰っていくのはどうなのよ。
 折角の雰囲気が滅茶苦茶じゃないの。

「はぁぁ〜あ……あたしもこんなこと止めて帰ろうかなぁ」
 シルファに言われて、こんなことしてるのがバカらしくなっちゃった。
 そんなことを考えていると、家のドアが急に開いてきた。
 慌てて体を隠すと、環先輩が家から出てくるところだった。

「タマ姉、ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして、お口にあったかしら?」
「うん、十分美味しかったよ」
「それならいいけど……ミルファちゃんの料理の腕が上がっててびっくりしちゃった」
 あ……作り置きしてあった煮物食べたんだ。
「毎日腕が上がっていっててね、毎日楽しいよ。
 ……あっ! 別にタマ姉の料理が不味いとか、そういう意味じゃないからね」
「ふふ。わかってるわよ。女性を頑張らせるのは愛情なんだから、しっかりしなさいよ」
「それは肝に銘じてるって……それじゃあ送るよ」
「ありがとう。でも平気よ、これくらいの距離どうってことないわ」
「そう……? それじゃあ、気をつけてね」
「えぇ。また明日ね」

 そうして家のドアが閉められ、環先輩は帰って……
「安心しなさい。あの子なら、あなたにベッタリみたいだから。
 ちょっと妬けちゃうけどね」
 え……も、もしかして、あたしに向かってしゃべってる!?
 応えるべきか悩む中、環先輩の言葉は続く。
「あなたが心配するのも分かるけど、少しはタカ坊のことを信じてあげるといいわよ。
 あれでも、誠実な子だから」
「…………」
「それじゃあ、またね」
 あたしが何も応えないまま、独り言のように喋った後、彼女は家へと帰っていった。

 あぁーあ……。
 これじゃあ完全に一人相撲じゃない……。
 どうしようかな……このまま家に入ることも出来るけど……。

 あたしは、貴明の部屋だけに灯りがつく中、その場を後にした。
 だって……こんな状態じゃ会わせる顔ないもん……。

 

「ねぇ、さんちゃん……あたしってバカなのかなぁ」
 夜、寝静まった時間、さんちゃんが軽いメンテナンスをしてくれるというので、
あたしはその言葉に甘えることにした。
 メンテを受ける中、今日の出来事をさんちゃんに話すと、さんちゃんはいつもの笑顔で
聞き続けてくれていた。
「そうやなぁ、アホでえぇんちゃう?」
「……そうなの?」
「うちは賢い人間を作りたくてみっちゃん逹を作ったのとちゃうからなぁ。
 友達やもん。少しはアホな位がちょうどえぇと思うよ」
「そうかなぁ……」
「それに、賢いみっちゃんって、ちょっと想像できんしなぁ」
 うぅ……結構酷いことを言われてる気がするよぉ。
「悩むくらいが丁度えぇと思うよ。それでまた少し賢くなれるやん。
 それがうちの望んだ友達や」
「そっか……じゃあいっぱい悩む」
「うん、それでえぇよ……でもなぁ、やんちゃはほどほどにな? いっちゃん、大分
 痛んで帰ってきたんやで?」
「それは……自業自得だから」
「それならしゃあないなぁ」
 うん……理解のある親で本当に良かった。
 さんちゃん相手だと、どんな悩みも自然と話せる。やっぱりこれが親っていうもの
なのかな。そうだとしたら、少し嬉しい。
「問題なさそうやな。一時期に比べたら、体の使い方が大分ようなっとるよ。
 みっちゃんも成長したんやねぇ」
「当然だもん。貴明に心配されたら困るもん」
「ははは。そうやなぁ。それなら、貴明にもっと悩んでることを告白せんとあかんよ。
 仲良くなるには、腹を割って話さんとなぁ〜」
「そっか……」
 そうだよね。話さないと何も進まないもんね。
 最初からさんちゃんに悩みを聞いてもらえばよかったかな……なんだか疲れちゃった。
 悩みが解決したあたしは、さんちゃんへ体を委ねる。
 さんちゃんにスリープモードへ移行され、あたしは眠りについた。


 ピピピピピピピピピピピ

「う、う〜ん……」
「ほぉら貴明、朝だよぉ〜」
「……え? ミルファ?」
 朝、眠そうに目覚ましを止める貴明にいつものおはようの挨拶。
 あたしが居ることが分かると、貴明は驚きの声をあげてくる。
 そりゃそうだよね。今日までいないはずのあたしがいるんだもの。
「おはよう、貴明」
「おはよう……あれ? メンテナンスは終わったの?」
「うん。早めに切り上げてきちゃった。その……貴明に会いたかったから」
「そっか……ありがとう」
 あぁ……この笑顔を見る為にあたしって生きてるみたいなもんよね。
 本当、これだけで一日頑張ることが出来そう。
「ほら、朝ごはんできてるから冷めないうちに降りてきてね!」
「うん……あ、ミルファ」
「うん? んむっ……」
 貴明に呼び止められ、振り向いた瞬間に近づいてくる貴明の顔。
 同時に感じる唇への暖かい感触。
 もうこれだけで体が蕩けそうに気持ちがいい。
「ん……早く帰ってきてくれて嬉しいよ」
「う、うん……あたしも……はっ! もう! 時間無いんだから早くしてよね!」
「はーい」
「あ、それと……」
「うん?」
「きょ、今日はいっぱい愛してくれると、嬉しいな」
「あ……うん……ごめん。心配させちゃったかな? あんまりガッつくのも情けないと
 思って我慢してたんだけど……」
「そんなことないよ。あたしだって……いっぱい愛して欲しいし……」
「うん……分かった。じゃ、じゃあ今日ね」
「う、うん……ありがとう」

 バタン

 あ、朝から何言ってるんだろう、あたしってば!
 顔が真っ赤になるのを止めることも出来ぬまま、あたしは急いでその部屋から出る。
 顔を触ってみると、明らかに熱い。
 なんであんな恥ずかしいことをあたしってば……。
 思い切って言ってしまったのに少し後悔。
 でも、これで今日からはいっぱい愛してもらえそうだし……んふふ……。
「……よしっ! これからも一生懸命がんばろー!」

 貴明の一番で居続けられるように、あたしは頑張るしかないのだ!
 改めて自分の目標を確認して気合を一発入れ、あたしは階段を下りた。






 



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