布団の素晴らしい寝心地を堪能する中、俺の体を揺する感覚が俺を少しだけ、雀の涙
どころかアリの涙位覚醒へと導く。
少し控えめなその揺らしは眠りには誘わないまで心地よかった。
「稟さま、朝ですよ。起きてください〜」
少し困ったような声を出しながら綺麗な黒髪を揺らしながら俺を揺する彼女。
「あと……後10分……」
「最初にそれ言ってからもう5分は経ってますよ。ほら、早く起きてください」
「じゃあ後5分……」
「だ〜め〜です! 楓さんが朝ごはん作ってらっしゃるんですから早く起きてください」
「俺は朝ごはんになめこ汁が無いと起きれない体質で……」
「それならサンダーキック(弱)で起きてみます? 死ぬまではいかないにしても起きれる
事は確実ですよ」
「ごめんなさい。もう起きますので勘弁してください」
「はい。勘弁してあげます。おはようございます、稟さま」
思わず布団から起き上がり、土下座をして勘弁したもらった後に今日一番始めに見た
セージの笑顔は今日も快晴だった。
俺にとっては数日振り。セージにとっては20年余り経った上での再会から一夜明けた朝。
昨晩はセージのあれからの事を色々聞いていた。
魔王のおじさんとアイさんのラヴラヴっぷり。
バークさんの相変わらずの変人っぷり。
ネリネの幼少時代の事などなど。
言いたいことがたくさんあったのか、何時間も彼女は嬉しそうに話してくれた。
まぁそのおかげで寝るのが遅れたわけで、今日は睡眠不足全快といった所だ。
しかしここでまた寝たらセージ曰く「威力はあの頃よりも30%ほどアップしてますよ♪」と、
太鼓判が押されたサンダーキックをお見舞いされてしまう。
眠い目をこすりながらリビングへと降りていくとそこには何時もより一人分多い食事が
並べられていた。
「おはようございます、稟くん。今日はちゃんと寝られましたか?」
「おはよう。セージのおかげで久方ぶりに睡眠不足MAXだな」
「稟、けだもの」
「えぇっ!?」
プリムラの情け容赦ないツッコミに顔を真っ赤にするセージ。こんなところは20年経っても
変わってないらしい。
「早々に脱落したくせに何を言う。お前を部屋まで運んでやったのは俺だぞ?」
「……記憶にございません」
「ずいぶんと古臭いネタを使うんだな……」
分が悪くなったからか、プリムラは箸を掴むとさっさと食事を始めてしまった。
それが合図になったのか、そこから他愛もない会話が交わされる朝食タイムとなった。
「それじゃあ俺たちは学校行ってくるんで両隣の困った人達に挨拶してくるなりして
下さい。何ならサンダーキックであっちの世界に帰してくれると助かります」
「あ、あははは……」
俺の本気の言葉に楓は空笑いで返してくる。隣でプリムラも頷いてる上にセージも
理解してる辺り、神魔両世界の王様ってのは違うよな。
「何から何まですみません」
90度近い角度で深々とお辞儀をしてくるセージ。その綺麗な姿勢は正に職人技と言っても
問題なさそうな気がするほどに感心させられる。
メイドとしてのものが染み付いてしまってるのか客人として扱われてる事に申し訳なさを
感じてしまっているところが実に彼女らしい。
「別に気にしないで下さい……っと、そろそろ行かないと。じゃあ行ってきますね」
「はい、皆様いってらっしゃいませ!」
「ねぇねぇ稟。セっちゃんが来たって本当?」
通学途中。
俺の隣で腕にしがみ付いているネリネから今一番旬な話題が振られた。
「なんだ、情報早いな」
「麻弓から連絡あったんだ。樹が早々にサンダーキックで蹴られてたって」
「さすがパパラッチだな」
まぁあんだけの衝撃映像が繰り広げられたところなら麻弓が嗅ぎ付けてこないわけが
無いか。多分麻弓なら「情報は鮮度が命なのですよー」とか言うだろう。
才能の無駄遣いもいいところだな。
「あぁ、昨日な。お前の小さい時の話とか色々聞いたぞ?」
俺がからかい半分で言ったところでネリネの顔が驚きが満ち溢れていくのが分かった。
自分の幼少期の恥ずかしい話なんかされるのは穴があったら入りたいくらいの恥ずかしさ
だろう。
「えぇ!? な、何聞いたの!? セっちゃん変な事言ってなかった?」
「えっと……庭で迷子になったとか、それでおしっこが我慢出来なくておもら……」
「わー! わー! 嘘! それ嘘だから! セっちゃんの作った嘘〜〜〜〜〜〜!!」
最後まで言い切らないうちに俺の口はネリネによって塞がれてしまった。
彼女の顔は耳の端っこまで真っ赤になり、既に半泣き状態に近かった。
「小さい時の事ですし、あんまり気にしなくても良いと思いますから……」
楓のフォローに対し、その長い耳をピクンと反応させたネリネはすぐさま楓へと言い
寄っていた。
「ちょっと! 何で楓も聞いてるの!?」
「そりゃ一緒に聞いてるときに話してくれたからな。ちなみにプリムラも聞いてるぞ」
「おもらしの話聞いてるとき、稟嬉しそうだった」
「そうやって誤解を招く言い方はやめなさい」
幼少期の微笑ましい話だからついつい笑っただけだ。
「おもらしさせるの好きなのに?」
「……」
別にそんな趣味は無い。と言いたかったが前科がある以上俺は言えなかった。
隣でシアが
「稟くんおもらしプレイ好きなんだ……でも恥ずかしいなぁ……けど稟くんが望むんだっ
たらそんなに嫌じゃ…………」
とか言ってる気がしたけど記憶からは消去しておこう。うん。
逆隣ではネリネがうなだれて
「もうみんなの記憶消す魔法とか調べようかな……」
「だ、大丈夫ですよ。聞いたことは誰にも言いませんから」
「秘密厳守」
あー、今日は一段とおだやかじゃない朝だなぁ、と。
「土見く〜ん! 捨てられてたノラメイドを拾って帰って調教してるってほんと〜?」
「朝っぱから何とち狂った事言ってるんだ」
案の上俺が席に着いた途端にツルペタパパラッチ事、麻弓がやってきた。
情報に常に飢えてる人間だけあって最高のネタを掴んだことが実に嬉しいみたいだ。
「やっぱりあの水色と白のストライプは彼女で間違いなかったみたいだね、稟」
「変なところで判断するな」
麻弓の声をききつけてか、樹も俺のところへとやってきた。
あれだけのキックを受けておきながらメガネにヒビすら入れずに五体満足に生きてる
こいつは強化人間か何かなんだろうか。
「やっぱりセっちゃん来たんだ。しかし20年も想い続けるなんて凄いわよねぇ〜」
「セージちゃんの想いを独り占めし続けるなんて……羨ましいにもほどがあるよ。稟は
少し位痛い目見ておかないと周りのみんなに悪いと思わないのかい?」
「痛い目なら日々見てる」
「あんなおっかけっこなんてみんなの心の苦しみに比べたら可愛いものさ」
釘バットやら鎖分銅やらを振り回しながら物凄い形相で俺を追ってくるのを可愛いと
言うのなら世の中で行われている紛争ももっと楽に終わると思うぞ。
「でさぁ、リンちゃんがあそこで落ち込んでるのは何故?」
麻弓の視線の先には未だに落ち込んだままのネリネとそれを慰める楓が居る。
魔導書らしきものを開いて何かブツブツ言っている所を見るとどうやら本気で俺らの
記憶を消す気らしい。
「ちょっとトラウマを思い出しただけさ……」
「何それ?」
稟の自宅。
リビングでうなだれた状態でソファーに座るセージの姿がそこにはあった。
「一般の家庭って掃除のしがいがあるって聞いてたのに……」
楓の代わりに洗濯を済ませ、掃除をしようと思ったところで家の中で掃除をするような
所が存在せず、お礼が出来ないと言うことで彼女はうなだれているのだった。
魔界で伝え聞いていた情報の限りだと人族の既婚女性は掃除もあまりしないで夫の方が
綺麗好きだったりする事だった。
あながち間違っていない情報ではあるが何より対象が悪すぎた。
主婦以上に家事をこなす楓がいるのだ。この家では汚くしていることの方が珍しい。
しかしそんな事をしるはずのないセージは暫くの間落ち込んだ後、とぼとぼと二階へと
上がっていった。
「ここが稟さまの部屋……」
稟の部屋の前に着いたセージは大きく息を吸う。
一回、二回。
二度の深呼吸の後、ドアノブを回して恐る恐る、まるで秘密の隠し部屋か開かずの部屋を
覗き込むように彼女は部屋の中へと入っていった。
「フォーベシイ様の部屋と全然違う……」
部屋の大きさはもちろん違うが何より空気が違うのを彼女は鼻腔から感じ取っていた。
魔王フォーベシイの部屋は男性の部屋と入っても書斎のような物であり、本が並び、
高級家具が並び、花が生けられている。こういったような生活感はあまり見受けられないのが
正直なところであった。
一般的な家ならこれくらいの生活感溢れる感じなのは分かっている。
しかし稟の部屋など想像しようにも出来なかった。
けれどその稟の部屋の中に自分がいる。
20年近く待ち続けた愛しいあの人のプライベートな場所。
同じ家に住んでいる楓、プリムラは当然としてネリネは、シアも入ったことがあるの
だろうか。
自分が彼女たちと同じ場所に立てるわけが無い。
何より彼女たちは自分より遥か前を既に走っている。
出遅れているもいいところだ。
想い続けてきた強さなら負けない自信が彼女にはあった。
だが同時に同じ位の不安もあった。
その迷いから開門後、自由に行き来出来たのにも関わらずここに来るのに時間がかかって
しまった。
きっかけになったのは魔王夫妻が帰ってきた時のことだった。
彼の口から稟が元気にやっているのを聞いた。
それだけでセージの心の中は喜びで沸き踊っていた。
その日は満足に眠れなかった。
魔王夫妻がまた人間界に戻った後、稟があの時泊まっていた部屋の掃除をしている時に
彼女の中で何かが弾けた。
気づいたら荷物をまとめて人間界へと行っていた。
しかし稟の家の前でどうしようかと迷っていた時に後ろから話しかけてくれた稟の顔。
毎日毎晩頭の中で描き続けていたあの顔がそこにある。
その顔を見た時点で不安やら何やらすべてが綺麗サッパリ消えてなくなっていた。
「単純だなぁ、あたし」
今もニヤけてるのが分かる。
嬉しくてしょうがない。
気づいたら彼女の足は凛のベッドの前へと運ばれ、いつもならするはずもないのに
軽くジャンプして彼のベッドへとダイブしていた。
マットの反動で揺れながら彼女は陽の光と稟の匂いを全身で浴びていた。
「あの頃と同じ匂い……」
何とも表現はしがたいが嬉しくなってしまう匂い。
枕に顔を埋めながら彼女は暫しの間、凛の匂いに溺れていた。
「ん……」
少し経った後、彼女は自分の体の異変に気づいた。
体が何かムズムズとしてむず痒い。
無論ノミやダニといったようなものが原因ではなく彼女自身の心情から来るものだった。
「昨日つい話しすぎちゃったからなぁ……」
出来ることなら直にでも抱いて欲しいという感情はあった。
しかし会えた喜びのほうが大きかったらしく、ついつい話し込んでしまった。
自分を少し情けなく思いつつ彼女の手は段々と下の方へと伸びていった。
こんな時はメイド服の長いスカートが煩わしくて仕方が無いと思いながら彼女はスカートを
少しずつたくし上げる。
スカートの中へと手を滑り込ませた彼女は下着の部分へと指を伸ばす。
割れ目の頂点付近に指を触れさせた時
「あ゙……」
彼女はまた自分の情けなさを痛感した。
彼の匂いを嗅いでいるだけでアソコが濡れているのがわかった。
小さくため息をつき、心の中で稟に謝りながら彼女は人差し指の腹でクリトリスの周辺を
擦り始め……
ピンポーン
……様とした所でお約束のように邪魔が入ってしまった。
今の状況なら無視しても問題は無いと思うのだが、そこは心底メイドであるセージは
慌てながら部屋のドアを開けて玄関へと向かった。
「は、はーい」
玄関を開けた先に居たのはつい先日あったばかりの朗らかな笑顔を見せてくれる夫婦の
姿だった。
「セージさんお久しぶり〜♪」
「やぁセージ。ネリネちゃんから稟ちゃんの家に来てるって聞いてね」
「は、ははは……わざわざどうもありがとうございます」
明らかに笑顔が引きつってる。
それが分かっていても余りのタイミングの悪さにセージはそのまま笑うしかなかった。