「…………」

 三人が早くもけん制をし合う中、渦中に巻き込まれている俺は何とかペースを掴もうと
話を切り出す事にした。

「あ、あのさ。色々あるんだろうけど、今日はちょっと出かけない?」
「お出かけですか?」
「あたしは構わないよ。貴明とデート出来るなら」
「ご主人様が言うなら……」
 先ほどまでの張り詰めた緊張感がようやく解れた気がする。
 作戦は成功したみたいだ。よかった……。
「うん。三人とも家に居るか、研究所、もしくは商店街とかに買い物行くだけでしょ?」
 メイドロボだから当然のことなのかもしれないけれど、俺はそれが少し不憫に思えてい
た。
 ミルファに関しては学校に行っている分、良いのかもしれないけれど、シルファちゃん
に関して言うなら他人との交流は明らかに少ない。
 誰かと接しろ、とまでは言わないまでも、外の世界をもっと知って欲しいと言うのが本
音だった。
 だからイルファさんからの申し出をあっさり引き受けたと言うのもあった。
「遊ぶって行っても珊瑚ちゃんの付き合いでゲームとかだろうし、外で遊ぶのも良いんじ
 ゃないかと思ってね」
「れ、れも、シルファ達はめいろろぼらから遊ぶのは……」
「そうですね、私は賛成です」
「イ、イルイル!?」
 消極的なシルファを押すためか、イルファさんも乗ってきてくれた。
「貴明さんからのデートのお誘いなら断るわけにもいきませんし」
「いや、デートって言うか、ただ出かけるだけ……」
「それじゃあ、お弁当を作りましょうか」
「はい?」
「まだお昼前ですし、今から出かけるならお昼が必要ですよね? だからと言って私達を
 連れてお店に入るのも貴明さんに悪いですし、でしたら落ち着ける場所でお弁当の方が
 良いと思います」
「そ、そうかもね」
 何か雲行きが怪しくなってくる。
 イルファさんに言いくるめられたのかもしれないけれど、確かにレストランとかに行っ
たとしても、4人で行って食べるのが俺だけというのは奇異の目で見られるだろう。
 そうだ、きっとこれがイルファさんなりの思いやりなんだ。
「じゃあ、まずはお弁当で勝負、ですね」
「え、いや、ちょっと」
「ふふーん。毎日貴明のお弁当を作ってるあたしに勝てると思ってるの?
 最近はレパートリーも増えたんだからね」
「成長してるのはミルファちゃんだけじゃないですよ?」
「シルファらって、負けないもん」
「じゃあ、そう言う事で……」
「ちょっと待っててね、貴明☆」
 そう言って、三人はキッチンへと行ってしまった。
 き、きっとイルファさんの思いやりなんだよね、うん。

 

 ご飯だけは炊いてあったらしく、お弁当が出来るまではそう時間がかかる事は無かった。
 それは彼女たちのスペックの高さを意味してるのだろうけれど、ミルファの恩恵にいつ
もあやかってるからか、当然に思えてしまうのはいけないことだな。
 感謝感謝。
 所で、どこぞのラブコメ漫画のような、重箱を用意して、というのは流石に無かったが、
中身は後で、と言う事で見ることは出来なかった。
 楽しみは後までお預けですか。

「それで貴明さん、今日はどちらへ行くんですか?」
「動物園」

 

 家から小一時間ほど行くとある、小学生の頃とかに来た動物園。
 そういえばこのみが大きな動物を怖がったりしてたのを思い出す。
 まさか高校生になってくるとはね。
「動物園に来るのはみんな始めてだよね」
「そうですね……かなり広いんですね」
 確かに小さい時は良く分かってなかったけれど、今改めてみるとかなり広い。
 ゆっくり見てたら一日は潰す事が出来そうだ。
「ねぇねぇ、どこから行くの!」
 ミルファはテンションが上がりっぱなしらしく、今にも走り出しそうな勢いでせっつい
て来る。
「そうだなぁ……とりあえず近場から見ていこうか」
「……そこにゾウが居るみたいれすよ」
 さっきから大人しいと思っていたシルファちゃんだけど、どうやらパンフレットを熱心
に見ていたらしい。
 俺が調べる前に指示をしてきてくれた。
 興味ないような素振りしてたのに、結構可愛いところあるんだな。
「早速大物か……よし! 行くか!」
「ごーごー!」

「想像以上に大きいですね」
「前に来た時はもっと大きかったイメージあったけど、それでも大きいな」
「アジアゾウ。肩高2.5〜3.5m、体重3〜5トン。ゾウの中れはこれれも小型れすよ」
「へぇ、シルファも結構知ってるのね」
「そこに書いてあるれす」
「あ、そう……」
 一段低くなっている広場に居るゾウだけれど、それでも近くで見ると大きさを実感でき
る。
 しかし3m近くもあるなんて……こんな大きさで生きていられるって凄いな。
「ゾウって動物園の主役、って感じがするよね」
「確かに居ないと寂しいかもね。でも、主役がトップバッターでどうなの?」
「……ほ、ほら。もっと色んなスターがね」
「鼻が長いれすね」
 俺の必死の言い訳を無視ですか。
 しかし面白いもので、ただゾウが歩いている。それだけなのに見続けてしまう。
 見慣れないものを見てる好奇心からだろうか。
 隣に居る三人も楽しそうに見続けていた。

 

「さて、シルファちゃん、次は?」
「何れシルファが……あっちにフクロウとかワシが居るみたいれすよ」
 文句言いながらちゃんとチェックしてるのを教えてくれるんだもんな。

「鷲ってかっこいいよねー」
「翼を広げると2mを越えるらしいれすよ」
「あの獲物を狙う目……凄いですね」
「うん、そうだね」
 でもあの目、俺は良く見てる気がする。
 そう、特に夜とかに。
「ねぇシルファ、鷹と鷲って何が違うのよ」
「シルファはここの係員れも、辞典れもないれすよ……。鷲はタカ科の動物の中れも
 比較的大きいものの通称れすよ。明確な区別は無いみたいれすね」
「へぇ。同じ種類なのに呼び方が違うんだ。シルファちゃんは物知りだね」
「やっとシルファの実力を知ったれすか……遅すぎれすね」
 そう言ってても褒められて嬉しいのか、シルファちゃんは頬を染めなら、悠然と佇む
鷲を眺めていた。

「フクロウってモコモコしてて可愛いですね」
「でも、首が凄く回るんだよね、確か」
「フクロウは眼球が動かせないんれすよ。らから変わりに首があんなに動くみたいれす」
「何か、本末転倒だね」
「……確かにそうれすね」
 進化って凄いけど良くわかんない方向に進化するもんなんだな。

 

 多種多様な動物が居るせいか、次から次に見ても見飽きない。
 これが動物園の凄さか……水族館とはまた一味違うもんだな。
 ある程度見終わったところで、園内の時計を見ると既に昼の時間は過ぎ去っていた。
 そういえばお腹がすいてきたかな。
「貴明、お腹空いた?」
「うん。空いてきたかな」
「じゃあ……あの広場で食べようか」
 家族連れがくつろげるようにだろうか、ミルファが指差したところは結構な広さの広場
があった。
 食べる事が決まったら手際の良い彼女達、あっという間にスタンバイが出来てしまった。
 そして並べられた3つのお弁当。形はどれも同じだ。
 でも、いつも学校に持っていくお弁当よりは明らかに小さい。女性用かな。
「今日は3つありますし、貴明さんの一人前で作ってしまうと食べきれないと思いまして、
 小さくしてみました」
「そっか。気遣いをどうもありがとう」
「いえいえ、美味しく食べて欲しいですから」
 本当、イルファさんって細かいところに気が利くよな。
 まさにメイドロボの鑑。
「どれから……とかは俺が決めて良いのかな?」
「はい。お好きにして下さって結構です。その方が先入観無く、公平というものです」
「やっぱり優劣は決めるんだ……」
 俺は美味しければ優劣なんて決めなくて良いと思うんだけどな。
 とりあえずどれでも良いと言うので、俺は一つのお弁当を手に取った。

 一つ目の中身は中華で彩られていた。
 短時間で中華料理って作れるもんなんだと感心しながら、俺はエビマヨを一つ口の中に。
 あれ、これって中華料理か?
「……美味い」
 衣に色々調味料が混ぜられたマヨネーズソースが絡んで美味しい。
 時間が経っているのが逆にマヨネーズの味と海老本来の味が交わって美味さが増してる
気がする。
 これは驚きだ。
「うん、これ美味いよ。今度夕飯に食べたいな」
「本当ですか!? 瑠璃様が聞いたらお喜びになります」
 あ、イルファさんのお弁当だったんだ。

 一つ目をあっさりと食べ終わり、俺は二つ目を手に取った。
 中身は純和風な仕上げ。鰤の照り焼きとか……うちに鰤なんてあったんだ。
 さっそく一口。
「甘辛くて、美味しいね。骨も無いみたいだし」
 基本に忠実、といった感じで嬉しい味だ。でもあの短時間ながらしっかり味は染みてる
し、これがご飯が進みそうだ。
「骨取りは大変なんれすよ」
 うーん、これじゃあ公平とか言ってた意味が無い……。
「シルファちゃん、料理上手くなったね」
「と、当然れすよ」

 さて、これでラストは誰のかわかってるけど……三個目を開いてみる。
「お……?」
 開いたときに俺はデジャビュを感じてしまった。
 タコの形のウィンナー、玉子焼き、ミートボール、ほうれん草のおひたし。
 で、海苔の乗ったご飯。
「……」
 ミルファの方を見てみるも、彼女は何も言わずに笑顔のままこっちを見てくるだけだ。
 とりあえず一口食べてみる。
「…………」

 反応の無い俺を見ながら、シルファちゃんとイルファさんがヒソヒソと話す。
「ご主人様、何も言わないれすね」
「どうしたんでしょう……」

「ごちそうさま」
「貴明さん、どうなさったんですか?」
 何も言わずに食べ終わった事を疑問に思ったらしく、イルファさんが俺に理由を聞いて
きた。
 そりゃ普通は聞いてくるよな。
「これは、ミルファの反則勝ち、かな」
「わーい!」
「り、理由はなんれすか!」
「ミルファが作ったお弁当、俺が小さい時に作ってもらってたお弁当と全く同じだったん
 だよ」
 遠足とかでお弁当を持っていける時、俺はいつも決まったおかずを注文していた。
 タコの形のウィンナー、玉子焼き、ミートボールにほうれん草のおひたし。
 で、海苔の乗ったご飯。
 まさかこんな所でそれを思い出すとはね。
「でも、何でこれをミルファが知ってたのか、なんだけど……」
「えっとね、この前貴明のお母さんから電話がかかってきて、その時に聞いたの」
 ……え?
「そ、それ俺知らないんだけど」
「うん。言ってなかったから」
 いや、言って欲しいんですけど。
「貴明の事が心配になってかけてきてくれたらしいんだけどね、安心してたよ。
 お嫁さんが来てくれてるなら大丈夫だって。えへへー☆」
 お、お嫁さん……母さんも早とちりし過ぎだっての。
「なるほど、それじゃあ確かに反則勝ちですね」
「普通なら反則負けれすよ……ミルミルはやっぱり卑怯れす」
「旦那さんの好みを把握しておくのもお嫁さんの大事なポイントだもーん!」
 ミルファが妙に自信満々だったのも納得だな。確かに一本取られた。
 こうして勝負の決着は上手く流す事が出来た。
 あぁ、良かった……。
 さて、栄養補給も出来たし、動物園を再度楽しむことにするか。

 

 

「それにしても……なんかどこかの美○しんぼみたいな決着ですね」
「今度は四万十川の鮎でも用意した方が良いれすかね」





<つづく>  
 



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